
改行記号:知られざる歴史と進化
活版印刷の時代、文章は活字と呼ばれる金属の文字を一つ一つ組み合わせて作られていました。活字は、鏡文字で彫られた小さな金属片で、これを組み合わせることで版を作り、そこにインクを塗って紙に転写することで印刷していました。この作業は非常に手間と時間がかかるものでした。特に、一行分の活字を組んだ板、いわゆる「キャリッジ」を操作するのは大変な作業でした。一行を組版した後、次の行を組むためには、このキャリッジを元の位置に戻す必要がありました。このキャリッジを元の位置に戻す動作のことを「キャリッジリターン」と呼び、これが「CR」の由来となっています。
その後、タイプライターが登場すると、このキャリッジリターンの機構が受け継がれました。タイプライターでは、キャリッジリターンは印字位置を次の行の先頭に戻す機構として採用されました。タイプライターには、このキャリッジリターン専用のレバーがあり、このレバーを操作すると、印字ヘッドが左端に戻ると同時に、用紙が一行分上に送られました。つまり、キャリッジリターンによって、印字位置を水平方向と垂直方向の両方で移動させていたのです。この一連の動作により、次の行の入力が可能になりました。活版印刷の時代からタイプライターの時代へ、キャリッジリターンという言葉は、文字通り元の位置に「復帰」という意味で使われてきました。
このキャリッジリターンは、現在のコンピュータにおける改行処理の原点と言えるでしょう。コンピュータでも、改行は単に次の行の先頭に移動するだけでなく、表示位置を垂直方向にも移動させる必要があります。この動作は、まさに活版印刷やタイプライターのキャリッジリターンと同じ役割を果たしていると言えるでしょう。活版印刷の時代の工夫が、現代のコンピュータ技術にも受け継がれていることは、大変興味深いことです。